紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク | 紀伊・環境保全&持続性研究所 連絡先:kiikankyo@zc.ztv.ne.jp |
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本書には、「本の構成」から分かるように、明日なのか、いつになるのかは分からないが、必ず襲ってくる東海・東南海・南海地震(しかもそれらは連動して起こる巨大地震かもしれない)、それに伴う破壊的な巨大津波について、著者はそれぞれの地域、都市にいて、一人称で巨大津波が襲ってくる光景・有様について何が起こるのかを想像力を働かせて書いている。
著者は、実際に阪神淡路大震災に遭遇しており、この経験を元に、「M8」(2004年)を出版し、その後、「TSUNAMI 津波」(2005年)、「巨大地震の日」(2006年)、「首都崩壊」(2014年)などを出版している。著者は、原子力工学の専門家であり、「メルトダウン」(2003年)も出版しており、東日本大震災が起こる前から豊かな想像力と調査力によって、予言的な本を著している。
本書は、2012年8月に内閣府の有識者会議が発表した、新たな「南海トラフ巨大地震の被害想定」を踏まえて書かれている。三重県では、その発表を踏まえて、最近、連動型巨大地震が発生した時の県下各地の震度、津波の高さと到達時間を公表している。紀伊半島に位置する三重県、和歌山県は南海トラフ巨大地震によって沿岸地域が壊滅的な被害を被ることが予測されている。本書は、南海トラフ巨大地震が地域住民の命にかかわる問題であることを改めて迫力ある表現で提起している。本書を読むと、東日本大震災を風化させることなく、改めて自分と親兄弟、子供、孫、地域住民が無事に生き延びるにはどうすべきかを考える端緒となる。また、企業経営等の事業を担っている方は、事業の継続性確保のためにどのようにすべきかについて、問題を先送りすることなく、更に対策を一歩進める契機となると思う。
南海トラフ巨大地震が発生した場合には、電気、ガス、水道などのライフラインの途絶、食料品、水、衣料等の生活必需品の確保が長期間困難になる可能性があり、特に、三重県の国道42号線等の海岸沿いの道路や山間の道路が瓦礫と崖崩れで寸断され、集落が孤立してしまいうことが予想される。
南海トラフ巨大地震による被災地域が東京から九州まで広大な地域にわたり、しかも被害が甚大であることから、自分たちのところへ救援の手がいつ及ぶのかは想定できないことから、各地域での自律的な生存のための取り組みが必要となる。
地域分散型の多様なエネルギーの確保、非常食等の備蓄、飲料水の確保等の対策、集落が孤立しないための外部との複数の連絡通路の確保と耐久性強化、津波からの避難が困難な地域における事前の避難対策、学校・病院・工場等の高台への移転等、様々な対策を進めることによって、被害を極小化するための可能な限りの努力が必要であろう。本書は、東日本大震災、内閣府の南海トラフ巨大地震発表の時と比べて、その危機感が少しずつ風化しつつ中で、明日起こるかもしれない大災害について、自分たちの生活する身近な現場で、想像力を働かせて被害を思い描き、これに対する共通認識を持って備えを進めていくための契機を提供するであろう。
(2014年3月22日/MM記)